ZUUMA|直感投資と戯言

直感投資家。チャートも見ますが時事ネタ等から直感で動くスタイルです。記事は話半分以下でお読みください。キングダムの考察はnoteで更新中。https://note.com/kazugaga

米国|金融分断が起きる火種(追記あり)

f:id:kazumaxinvest:20220401071444p:plain

金融分断の火種

米SECのゲイリー・ゲンスラーが、中国株の非上場化に関する発言をしたことで中国株が下落しました。具体的には、「中国企業約200社の上場廃止の回避に向けた合意が間近になっている」との憶測を全否定したわけです。

markets.businessinsider.com

 

米SECが求めているのは、米PCAOBによる検査を受けること。現在54か国が(渋々)検査を受けることに合意しています。

pcaobus.org

 

SECの動向は事実上、中国勢を狙い撃ちする内容に終始してきました。PCAOBは検査対象の監査法人に対し、監査済みの財務諸表や、そのベースとなる帳簿の閲覧を求めるため、中国側が受け入れる可能性は現時点では低いと思います。

 

<問題の背景>

検査に関する新規則は、トランプ前政権下の20年に成立した法律に基づいています。共和・民主両党の議員が上場ルールの厳格化を提案し、超党派の賛同を集めました。バイデン政権がこれを引き継ぎ、SECが最終規則化にこぎつけたのです。SECと中国の証券当局は水面下で協議を続けてきましたが、妥協に至りませんでした。米国内で、党派を問わず対中強硬路線への支持が広がっている証左です。ラッキンコーヒーの不正会計と、米国の投資マネーが中国政府と関わりを持つハイテク企業の資金調達を支えることで、安全保障上の脅威が増すとの懸念・問題意識も広がったのが主な理由です。

 

米SECのゲイリー・ゲンスラーはバイデンの意向を汲んで金融政策を行うので、米中金融分断に関しては今後も続くと思います。下記の過去記事をご参照。

 

金融分断は一時的なもの・部分的なものを含め、起き得ると考えて良いと思います。投資は常にワーストケースを想定して戦略を立てるほうが良いので、中国株(ADR)が今後ダメージを受けないということはないと思っています。

もしポジションの組み換えが出来るのであれば、香港でのポジションを増やしつつ、米国のポジションを出来る限り切っていくということも必要になるかもしれません。そこに結びつく動きが、今日の首脳会談以後に少しずつ分かっていくはずです。

金融分断のシナリオ - ZUUMA|直感投資と戯言

 

投資家のリスクとは

中国株が上がる局面で、米国からは逆に下げるメッセージが発せられるので、その都度投資家はリスクにさらされます。米SECは投資家のリスクを減らすための措置だと主張するのですが、一方的な発言を行うだけで、「既にリスクに晒されている投資家」がいることには見向きもしません。

 

日本の皆さんに質問です、ファーウェイの件はどうなったでしょうか。今年後半まで「期限付き延期」になっただけで終わってないのです。火種です。

www.cnn.co.jp

 

対露制裁もそうなのですが、最大公倍数を見据えて舵を取ることが出来る人」が米国にはいません。善悪二元論でシロかクロかを強引に決めます。今に始まったことではないので、中国株に5年ほど投資してきた方で、私の過去記事が大げさだと思う方は少ないでしょう。

 

話がそれましたが、国によって制度が異なれば解釈も異なる。商習慣も異なれば常識も異なる。一方的に「罰則」を課すことは、相手の主張を1歩たりとも受け入れず、「我が国だけが正しい」という米国の姿勢を表しています。米国が制裁を課した国に対しては、全世界が制裁を課さなければならないのでしょうか?それは違うと思います。

 

とは言え、米国の一方的な主張は曲げられることはありません。誰がトップになっても変わりません。中国は、受け入れるか否かを決断する必要があります。

 

米国の狙いは

中国株に投資している人は、なぜ米国がこのようなことをするのかを何となくで良いので感じ取って行く必要があると思います。

 

これは私の考えですが、米国の基本的な目的は1つです。「米国企業の競争力を強くして、中国企業の影響を弱くする」ためです。

 

投資家が「中国企業は危ないから米国企業に投資しよう!」と思うようになれば、米国企業は有利に資金調達が可能になります。一方で、米国企業より優れた中国企業は確実に存在します。なのに、株価もバリュエーションもおかしいのです。

 

これも何度も書いてきたのですが、今年は安全保障的視点で投資をしていく必要があります。決算発表を見ているだけでは、相場を読み違えますのでご注意を。

 

米国が恐れるもの

米国が最も恐れているのは、中国がアジアで経済圏を作り、富める国を作ることです。その富める国の人々が米国株ではなく中国株に投資できる環境が整うと、中国株への投資キャップがかなり上がり、米国に匹敵するかそれ以上の金融市場が出来る可能性があります。

 

また、米ドル以外の通貨での投資が活発になることで、米ドル覇権体制が崩れます。実際にはそこに向かって動いています。

 

ロシアは世界最大の資源輸出国。「ルーブル決済をしないのならガスの供給を止める」と言えば、ルーブル以外の通貨では決済出来なくなります。EUはガスが欲しければこの条件を飲まざるを得ません。米国との板挟みになり、結果的にEUは米国から離れていくでしょう。それまでは二転三転あると思います。

 

これは「米国が自ら招いた」結果です。脱覇権に向かわせているのは米国自身の決断です。日本はずっと対米従属で良いのでしょうか。今通貨に何が起きているのかを、冷静に見る必要があります。

 

www.planet-today.com

 

 

<歴史的な視点>

✅第一次世界大戦:基軸通貨を英ポンドから米ドルへ切り替えた契機。当時、世界中で金本位制が採用されていたため、世界最大の金保有国であった英国から、金のインゴットを米国へ移動させなければなりませんでした。

✅第二次世界大戦:ヨーロッパを火の海にしながら、米国は製造した兵器をヨーロッパに輸出し続けました。英国には、世界の兵器製造工場・米国に支払う金がなかったので、金で支払いを行っていました。結果、米国には世界中から金が集まりドルー金本位制を確立、米ドルが世界の基軸通貨となりました。

✅その後:ドルー金本位制は、ブレトンウッズ体制の崩壊によって廃止され、世界経済の拡大とともに需要を増す米ドルはFRBによって無制限に発行できるようになりました。米ドル覇権の成立です。

 

投資すべき中国株

話を戻しましょう。

 

ゲンスラーの発言の意図は、「上場廃止にする」ということではありません。要求している条件に適応しないと上場廃止になってしまう可能性のある企業があることは事実ですが、そこに直結する決断は何もしていません。

 

米国で事業を営んでいる企業や、これから米国進出を計画している企業については、どこかで折り合いをつけると思っています。そうしなければ、米国での事業が出来なくなります。

 

中国では、政府(地方政府含め)が関与するファンドや金融機関の資金によって、国策的に成長を目指す企業があることは事実です。私個人の経験からも過去記事を書きましたので、ご覧ください。

investmax.hatenablog.com

 

このような手法は、中国では「普通」なのです。それが、米国だと「中国共産党の支配下・傘下」という「悪い伝え方」がされます。私は国が産業を育て、その産業の中核となる企業に出資し応援しつつ、地方の財政を潤すこのやり方を「悪」とは思っていませんでしたし、理に適ったやり方とさえ考えています。ただ、国が異なれば手法も考え方も異なると書いた通り、米国では「疑義あり」ということなのです。

 

そのような視点で考えると、政府が融資している企業は米国の要求を飲まなければならない、ということになります。私の記事をご覧の方々はNIOの投資家が多いと思いますが、地方政府(安徽省合肥市)が融資しているNIOも例外ではありません。

 

NIOは米国の要求通りに対応するでしょう。なぜなら、米国市場での事業を計画しているからです。気になる点としては、EVカンパニーはテック企業であるということ。もっと突っ込んで言うと、膨大な道路情報や通行データを5Gで取得しながら事業運営します。このデータの管理を米国内のサーバーで行うことも要求されます。中国へのデータ送信は許可されないと思います。そうなった時に、米国のデータとそれ以外のデータのマージ分析は出来ないということになり、事業運営的なネガティブ要素にならないとも言い切れません。それでも、NIOの業績に大きな影響を及ぼすとは思えません。

 

もし米国市場で上場する中国株に投資したい場合は、米国で事業継続が可能な企業かどうか、ですね。重複上場している場合は、米国を避けるのも手です。

 

「消耗品」になった日本のニュース

最後に、余談を。

 

本来、ニュースとして配信される情報は蓄積されなければなりません。ところが、日本を含め欧米メディアが垂れ流す情報は「消耗品」です。一度口に入れて食べてしまえば、それが正しくても間違いでも、胃の中に吸収されてしまい振り返ることはありません。つまり、責任を持たない情報です。誰も検証せず、誰も責任を問われません。

 

最近の中国は、配信される情報を「骨董品」のように正しく扱うようになっていると思います。過去の情報を引用しつつ、自らの発言も慎重に行う。外交部の会見などを見ていても、非常に論理的かつ丁寧に質疑応答しています。この蓄積は非常に大きいように感じます。この「蓄積」が「歴史」になっていきます。

 

日本のメディアは、総じてこの「蓄積」が出来ていません。時間が経つと、ウェブで配信されるニュースも削除され、リンクが無効になります。私の記事でも、過去記事を見るとリンクが存在しないものがたくさんあります(汗)。

 

これが続くと、情報を「線」で見ることが出来ず、「点」でしか判断できなくなります。戦後からずっと続いている米国の「日本愚民政策」の1つです。投資でも搾取される側に回る可能性が高いので、より一層「バランス感覚のある」アンテナを張り、「線で見る」スタンスを身につけておきたいところですね。

 

 

あとがき 2022.4.1.

中国当局が米国SECの要求を飲むという柔軟な姿勢を示したようです。

cnevpost.com

 

但し、これも眉唾もので、ずっと折り合いがつかないものが突然解決するということはありません。

 

中国にはCAS(会計基準)とC-SOX(内部統制制度)がありますが、これを米国基準に合わせていくか、または米国での中国上場企業にだけ特別に米国基準の会計基準と内部統制を課す必要性があります。

 

その上で、各国がPCAOBと締結しているStatement of Protocol及びData Protection Agreementを、中国が国としてPCAOBと締結することになると思います。

pcaobus.org

ここが最大にして唯一の難所です。もし、この作業が担当者レベルである程度の進捗を見せていて、完成までのタイムスケジュールが内定しているのであれば、ゲンスラーはあのようなメッセージを発していないようにも思います。

 

中国寄りの見方をすると、「夏頃までに合意したい」という内容があるため、もしかするとタイムスケジュールが内定しているのかもしれません。そうなると、ゲンスラーは投資家心理を悪化させる不要な発言をしたということになり、「中国株を下落させる」という魂胆が見え隠れしてきます。

 

「夏」を8月と仮定した場合、あと4~5か月です。ここでどのような進捗を見せ、決定事項が出てくるかは見守りたいところです。

 

中国には、日本でもお目にかかれない契約形態が存在します。米国でも見たことが無いものです(もしかしたらあるかもしれませんが)。どのように受け取られるか分からないため詳述はしませんが、あの中国独特の文化をどのように米国流に修正するのかは個人的に注目しています。

 

f:id:kazumaxinvest:20220313101424p:plain