米国でインフレが続く理由は一体なぜか…結論を先に書きますと、米国が自らの覇権争いのために愚策を続けるからです。何の覇権かは明確で、エネルギー覇権(ペトロダラー)と経済覇権です。この2つが揺らぐと、もう1つの覇権も揺らぎます。
この記事は前回の続きです。
米ドルという兵器が世界を牛耳ってきた
米ドルが兵器であることに異論を持つ人はほぼ皆無かと思います。この兵器は、米国の言うことを聞かない国に対し「制裁」を課すことで、経済を窒息させ相手方の通貨を暴落させる効果をもたらします。
アゼルバイジャンは先日の国連において、一方的な強制措置、立法、二次的制裁は、国際法、規範、原則、国連憲章に違反することを強調し、制裁が、すべての人権に不可欠な「普遍的かつ不可侵な権利」と認識されている開発の権利を含む人権に悪影響を及ぼすことに「重大な懸念」を表明しました。
「制裁」は前述の通り米国の兵器です。
この国連決議は、すべての国に対して、「一方的な強制的措置...特に域外への影響を持つ強制的な性質のものを採用、維持、実施、または遵守することをやめる 」よう求めました。
結果、この決議案は、賛成33票、反対13票、棄権1票で承認されたのです。反対したのは、予想通り米国と、英国、ベルギー、フランス、フィンランド、ドイツ、ウクライナなどNATO加盟国またはその一派でした。民主主義を主張するのであれば、賛成多数で可決です。つまり、米国が他国に制裁を課すことは、国連決議に違反することになります。米国はキューバ、ベネズエラ、イラン、北朝鮮、リビア、ベラルーシなどに一方的な制裁を課してきましたし、「ロシアから原油を買うな」というのも制裁です。果たして米国はどのような民主主義の世界に生きているのでしょうか。世界から見れば、「偽りの民主主義」です。
今回の採択は、ウクライナをめぐる欧米の対ロシア制裁を拒否した格好になり、途上国の欧米離れが加速している大きな流れの一環です。
マクロンが習近平のリーダーシップに賛同
米国は世界を牛耳るために、米ドル、制裁、戦争(陰謀)という3つの武器と、それを補うための経済覇権、エネルギー覇権、金融覇権という3つの覇権が必要でした。
ところが、国連で制裁は否定され、戦争(陰謀)は常に根拠がないことが露呈し、そればかりか「戦争を引き起こすために各地で陰謀の限りを尽くしてきた」ことも露呈し続けています。そして最後の武器となった米ドルの強さを、今後失うことになるかもしれません。
先日、トルドーが習近平に諭されて話題になりましたが、マクロンも習近平のリーダーシップにひれ伏したようです。
習近平が広州でマクロンと会談したのは超異例です。きっと、欧州におけるニューエコノミーの旗手として、習近平はマクロンに白羽の矢を立てた(上手く利用しようとしている)のではないでしょうか。
上記の記事で、マクロンが大変面白い発言をしています。
マクロン:EUは米国への依存度を下げ、台湾をめぐる中国と米国の対立に巻き込まれないようにしなければならない。EUが直面する「大きなリスク」は、「危機に巻き込まれ、戦略的自律性を築くことができなくなること」であると述べた。
マクロンも、中国・習近平が描く「新しい秩序に基づく平和な世界」に賛同したのでしょう。密約があったかもしれません。マクロンは、米国が世界を牛耳ってきた武器に賛同しないという立場を取ったのです。もしかすると、これは予想でしかありませんが、EUは大きく動くか分裂する可能性があります。
米国不動産の動向を注視
米国は他国に対し善悪二元論で制裁や戦争を行っている場合ではないと常々思うのですが…米国の足元が揺らぐきかっけは不動産になるのでしょうか。
不動産会社CBREの速報データによると、すでに過去最高を記録しているオフィスの空室率が、サンフランシスコで上昇を続けていることがわかりました。2023年第1四半期の空室率は29.5%に上昇し、研究者によると、この数字は次の四半期にも拡大する可能性があるそうです。
比較対象として、2022年第1四半期の空室率は19.7%でした。2019年の数値は4%以下でした。
2022年第4四半期における、人口密集地のトップ200エリアにおける空室率は12.49%です。米国のみで考えても、15.7%の空室率。Covid-19以降、オフィス需要が世界的に減っているとは言え、平均値の2倍もあるサンフランシスコは異常です。早計は不要ですが、賃貸する側の不確実性が増しているかもしれないことと、それに伴い不動産オーナーの不確実性が増している(特に金利上昇でローンを抱えるオーナーはかなり厳しい)と思われます。
過去のケースでは、ケースシラーがピークアウトし下落を始めると、リセッション入りして株価が下がります。今回も既にピークアウトし、下落を開始してますが…
不動産市況は注視するとして、私は米国のリセッション・トリガーの本丸は不動産ではないと考えています。
ドル離れ=米国離れ
米ドルが兵器であるが故に、泣き寝入りしてきた国はたくさんあります。日本もかつて半導体で辛酸を嘗め、中国が台頭すると米国から「半導体やれ」と言われる始末。独自発展する機会を潰されてきたわけですが(書けないこともあるので察してください)、日本はまだマシです。
制裁で経済をメチャクチャにされた挙げ句、相対的な通貨の弱さを更に弱くされ、根拠のないウソを大義名分に指導者まで暗殺されてきた国がいくつあることか。ウクライナにも加担し、代理戦争(Proxy War)でロシアを潰そうとする。NATOが過去にどういう約束をしたのか、なぜそれを反故にするのかは、世界中が目撃者です。下記は公開文書、ご参考まで。
米国(NATO)が約束を守らず、メディアも使いながら民意を扇動し戦争に突入していく、それらをつぶさに見てきた国が、「次はうちがやられかねない」と思っているわけです。「米国は信用ならないから、ドルをどうにかしよう」と急速に結束を固めているのが、BRICSです。当然、前述のマクロンもこの動きを知ってます。
参考:インド太平洋地域のパワーバランスが「米国とその同盟国から離れ始めた」という記事。
注目してもらいたいことがいくつもあるのですが、3月下旬~4月上旬のわずか1週間のうちに入ってきたニュースをピックアップします。
1. Saudi Arabia agreed to join the Shanghai Cooperation Organization as a dialogue partner
2. China and Brazil made a deal to ditch the dollar for trade
3. China and France completed the first LNG trade settled in yuan.
5. Dollar Dominance at Risk: BRICS Exploring New Trade Currency
6. The first China-UAE gas deal in yuan
たった1週間ですよ?大激震のはずです。日本では特に4.(3月29日付)についてはほとんど報道されません。日本語の記事を探しても出てこないかもしれませんね。
米国の属国・日本はこの動きについて行けないので、今月5日になって慌てて追随したような印象です(再送までして)。
日本の発表に先立ち、脱米ドルの動きに焦った米国はホワイトハウスで会見を行い、「米ドルから脱却したら制裁する」と早速脅迫を開始。
"Switching to national currencies is a violation of the rights of American citizens." The White House threatened with sanctions those countries that refuse the dollar in mutual settlements.
— dana (@dana916) 2023年4月1日
Is there no end to the embarrassing statements of our White House? The incompetence of… pic.twitter.com/nqB0KQ8ubF
(翻訳)「自国の通貨への切り替えは、アメリカ市民の権利の侵害です。」ホワイトハウスは、ドルを拒否する国々に制裁を加えると脅した。
さすがギャングですね。なぜアメリカ市民の権利の侵害に該当しちゃうのでしょう。意味不明の極地です。
脱米ドルを許さないのは、米ドルという兵器を活用し、他国を牛耳ることが出来なくなるため、ですよね。このような脅しを一寸の迷いもなく言い切れる国は、米国だけでしょう…と私は思うのですが、皆さんはどう感じますか?日本人の多くが嫌っている中国やロシアは、このようなことを言ったことがあるでしょうか?
しかも、中国にドル脱却の新通貨構想を持ちかけたのはマレーシアです。強くなった中国に、他のアジアの国々が(日本と韓国以外)、「そろそろリーダーシップを握ってはどうか」と持ちかけているような気がします。
中国の動きを客観的に見る
その中国は、冷静に米国債を売り続けています。保有量は、既に2010年のレベルにまで低下。
着実に米ドル依存から脱却を図っているように見えます。
世界情勢を冷静に見ると、日本人の多くが考えるベクトルを勘違いしているように感じます。中国が日本を侵略するという米国式妄想に完全に囚われている人も多いと思いますが、中国は日本を侵略するメリットとデメリットを良く理解しているので、侵略するよりも上手く付き合ったほうが良いことを知っています。中国が日本に脅威を与えるような態度を取るのは、そもそも米国が台湾政府をけしかけて「中国が武力侵攻するぞするぞするぞ」と言い続けているからです。米軍機が中国に接近しまくっているのを、日本人の多くは知らされてません。
米国にとって、日本とはそういう国です。何をやってもいいのです。
瀬口さんの見解はバランス感覚に溢れていて参考になります。
フィリピンは、はっきりとNOを叩きつけました。なぜ日本は、台湾にちょっかいを出す米国に対してこのようなことを言えないのでしょうか。
…と書くと、台湾独立を応援する人にとっては都合が悪い話になると思いますが、一度日中共同声明くらいは読んでから判断しても遅くはないと思いますよ。田中角栄がやろうとしていたことは、米国抜きでアジアの和平を実現する動きです。誰が角栄を干したのかは推して知るべしですね(明確ですが)。
最後に
繰り返しになりますが、米国から離れようとする国は多いですし、今後も増えるでしょう。その時に、米ドルは覇権を手放すことになります。ドルが強く、金利も高い状況においては、米ドルが人気です。但し、今後脱米ドルの動きから米ドルが相対的に弱くなり、また、ペトロダラーの終焉によりエネルギー覇権を手放すことになると、ドルの価値は一気に下る可能性があります。
可能性なので、絶対ではありません。私は、この「ドル暴落」が金融マーケットのクラッシュを引き起こすと見ています。
そしてそのクラッシュから立ち直ることはなく、米国主導であった金融マーケットも崩れることになります。米ドルからのキャピタルシフトが起きて、トランザクションも減ります。中国が中心となって米ドルから脱却した金融マーケットを作ったら、面白いと思っています。実際、ASEANの金融会合でも脱米ドルが話し合われています。
その時が来たら、中国株を本気で仕込むチャンスかもしれません。空売りの無い世界で、億万長者のチャンスです。最後に1つだけ覚えておいてください。
8月にダーバンで開催されるBRICS sumit Durbanでは、何か進展がありそうな予感がしています。
発表次第では、金融マーケットが荒れます。米国の反応が楽しみですね。