皆さんはMr.Childrenが好きですか?
僕は中学生の時に1stアルバム「EVERYTHING」と2ndアルバム「KIND OF LOVE」を聴いて、「このバンドは凄い」と思って以来のファンです。ただ、ガチガチのマニアというわけでもなく、ライブは3回しか行ったことがありませんし、ミーハー的にグッズを買うでもなく、純粋にポップスとしてのミスチルを楽しんできました。
今回は、2023年10月4日にリリースされたアルバム「miss you」を約4か月ほど聴いてきましたので、全曲レビューをしたいと思います。
ミスチルの作品の中ではかなり物議を醸したアルバムではないでしょうか。バンド史上初、収録曲すべてが新曲、収録曲すべてがノンタイアップ。これはオリジナルアルバムとしては1stアルバム「EVERYTHING」以来です。なぜ発売直後ではなく今になって全曲レビューするのかと言えば、正直、楽しみ方が難しいアルバムだったからです。また、発売直後に出てきた素人レビュー達の評価がすこぶる悪かったのもあります(笑)。まぁ僕も素人なんですが…
本題に入る前に少し余談を。
2023年に発売されたアルバムで秀逸だと思ったのが、斉藤和義の「PINEAPPLE」、Vaundyの「replica」、blurの「The Ballad of Darren」です。Mr.Childrenの「MISS YOU」は、僕自身、最初の10回聴き終わっても「秀逸!」とはならず、難しさが先にやって来たわけで…でも、聴くうちにハマってくのが不思議な感覚でした。
では、全曲レビューを。
1.I MISS YOU
この曲のレビューが、アルバム全体を通したレビューに繋がるので大事な曲です。というか、もうこの曲のレビューがアルバムレ・ビューと言い切ってしまって良いほどです。なので少し長めに書きます。
ミスチルがこの曲を1曲目に持ってきた意図を感じたわけです。結論を先に書いてしまうことになるのですが、ポイントは桜井和寿の歌唱力です。今までの作品をじっくり聴いてきた方はすぐ分かると思いますが、明らかに声の表現力が上がってるのです。今までなら声帯のアクセルを目一杯押し込んで発声していたようなところを、ふっと力を抜いて歌ってるんです。
実はこれ、かなり難しい。歌い方を変えるくらいのトレーニングをしたと想像しています。例えば、ミスチルの過去の曲をカラオケで歌うのが好きで得意な方がいたとします。90%の方は、この曲を歌いこなせないと思います。それは過去の桜井和寿とこのアルバムの桜井和寿がほぼ別人に近いほど歌い方(発声方法)を変えているからです。
専門的なところは割愛しますが、声色の表情の豊かさにフォーカスすると、「あ、このアルバムはヴォーカルメインだな」ということが分かります。実際、制作時に「音を過剰に足すことをやめよう」と田原健一が提案したようです。「だからまだ何か足りないっていうぐらい、“でも足りないからこそ、歌の中にある大事なものを伝えたい、ちゃんと聞かせていこう”っていう様なプランだったんです」と桜井も語っていたようです。
ここに気づかないと、「今までのミスチル」をベースに評価してしまうと思うんですよね。前作は骨太なバンドサウンドで音の響きが印象的でしたが、今作はヴォーカルなのです。
2.Fifty’s map 〜おとなの地図
ミスチルのファンがなぜ多いのか、その要素の1つが「普通の人の等身大」を歌ってるからだと思います。僕も実際10代の時に好きになって、今や40代です。なぜ40代になっても聴いているかと言えば、やっぱりこの曲のような等身大の自分を重ねられるような歌詞にあります。
「少し足を止めて 景色眺めるのも良い そう自分に言い訳しながら ぬるいコーヒーで愚痴を飲み込もう」
「どこにも逃げれない そう過去にも未来にも 孤独の意味を知った友よ 同じ迷路で彷徨う友よ」
歩んできた道のりを、憂う時もあったりしますが、認めながらまた歩く…そんな哀愁を前向きにとらえる曲です。
3.青いリンゴ
また「コーヒー」が出てくる歌詞です。
「出掛けにコーヒーをすすりながら 少しだけ心が傷んだ」
桜井さんのイメージでは、ふっとひといきつくときのツールが、コーヒーなんですね。
この曲はちょっと懐かしいテイストを感じます。全体的に壮大なアレンジもせず、シンプルな音で構築しているからでしょうか。ただ、シンプル故にやはり歌唱力が求められる歌になっています。で、桜井さんの歌唱力が爆上がりしたことで、シンプルな音xシンプルな歌詞が力強く響くんですよね。
曲調は明るいんですが、実は失ったものがあったりして、歩んできた長い過去と未来がその明るい曲調の中に同居すると、ちょっとざわざわしたり。実は聴く度に深いなぁと思わせる曲です。
4.Are you sleeping well without me?
このアルバムを10回聴き終わった時に、一番好きだなぁと思った曲です。シンプルなマイナー調のリフレインが、出だしから印象的です。雨が降っているような、日が暮れてきた時のような、そんな雰囲気があります。
「コーヒーカップが口を逸れて 気に入りのシャツに溢れ落ちた」
ここでもやはりコーヒーなんです(笑)。
「教えて欲しい」という歌詞でサビに入るんですが、「◯◯して欲しい」という少し女々しい?ような歌詞は、桜井さんがほとんど使わないフレーズなんですよね。「僕がいなくて、良く眠れるの?教えてよ」と、フラレた男?不倫された男?寝取られた男?みたいなちょっとメンヘラが入った男をイメージしてしまいました。いやぁ、名曲。
5.LOST
これも今までにない声の表現が生きています。
「鏡なんて無くて良いや こんな自分をもう見たくない」
ここのつぶやきっぽい、ため息混じりの声色が雰囲気たっぷりなんです。失望めいてるというか。前半から行き止まりの袋小路で立ち尽くす情景が浮かびます。いいことがあるさ、と自分に言い聞かせながら生きてきたんだけど、もう50歳になってみて…「実はいいことなんて起きないんじゃないか」と気づき始めた男ですね。願っても、祈っても、何も起きない。
これ、じっくり聴くとめちゃくちゃ悲しい曲です。40代、50代以上の人は、特に悲しくなってしまうかもしれません。今まで失った「LOST」を思い浮かべて、涙が出そうになります。人生は時に残酷なんです。
6.アート=神の見えざる手
これは犯罪者やDV男の独白的な、内包された狂気を自己正当化するような歌詞が印象的です。このアルバムの中で一番の問題作!と思いました。褒めてます、好きなんですこういうの。僕はこういう気持ちになったことがないので共感までは行かないのですが(笑)、桜井和寿は一体どういう状況でこの曲を作ったのでしょうか。
ナンセンスなワイドショー、ナンセンスな米国を揶揄してますが、これは痛快です。現在、世界を混沌とした状況に陥れているのが米国だということに反論する人は日本の政治家くらいでしょう。「金髪女」はナンシー・ペロシのことでしょうか。アジアに火種を作ることしか考えていない国の金髪女と言えば、彼女しか思い浮かびません。
そういう意味でも最高です。まぁこれを曲と言えるのか…という議論もあるでしょうけど、かなり面白いチャレンジができたのは、「MISS YOU」というアルバムだったからでしょうね。
(後編に続く)
↓
↓
↓