ウクライナへの資金提供
ロシアがなぜこれほどまでにNATOの東進・拡大を警戒しているかは、前回の記事に加え、米国がNED(National Endowment for Democracy=全米民主主義基金)を通じて、ウクライナを親米政権にする画策を通じ、ロシアに対抗する動きを取ってきたことを理解する必要があります。(Wikipediaも全て正しいとは言いませんが、ご参考まで)
・NEDによるウクライナへの資金提供
NEDはほぼ全額を米国国家予算から拠出され、元国家安全保障国家の指導者が中心となって働いている。現在の会長は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の元特別補佐官で、国家安全保障会議の欧州問題担当上級部長であったデイモン・ウィルソンである。NEDの理事会には、現CIA長官のウィリアム・J・バーンズ、現国務次官(政治担当)で2014年ウクライナのマイダン革命の首謀者ビクトリア・ヌーランド、そして中米の極右・死の部隊への武器供給やベネズエラ政府転覆の企てで悪名高いベテラン国防官僚エリオット・エイブラムスなどの高官が名を連ねている。全員が他国の政権転覆を主導してきた輩である。
世界中で、NEDはカラー革命の指導者として機能することができる人々のグループを訓練している。その過程で、真の草の根運動を潰し、その資金力を使って活動家を親米路線に押しやる手助けをしている。資金提供を受けている団体を分析すると、この活動全体が米国が支援するゼレンスキー政権への支援を強化するためのものであり、ロシアが非難されるような「事態を吹き飛ばすほどの対外干渉活動」を行うためのものであることが分かる。
Source:Documents Reveal US Gov't Spent $22M Promoting Anti-Russia Narrative in Ukraine and Abroad
Fact Checkは下記をご覧ください。NEDの現アンバサダーでもあるヌーランドは、ウクライナに対して20年以上に渡り50億ドル以上を費やしていると言っています。
NEDが中国の政権転覆を狙い、香港で民主化を扇動し、新疆ウイグル自治区でのジェノサイドを捏造したことは記憶に新しいと思います。同じように、米国式民主主義を導入せず、言うことを聞かないロシアに対してもNEDを通じてウクライナに対抗させているのです。中国が香港で「外国の勢力と結託して事を起こす」ことを取り締まったのは当然のことです。日本では弾圧としか紹介されませんでしたが、これを潰さないと国が潰れます。
中国が米国を批判するのは、その謀略的な動きが分かっているからです。
中国外交部の汪文斌報道官は16日の定例記者会見で、「中露両国元首のもとで、双方は一貫して同盟を結ばず、対立せず、第三国を標的としないことを基礎に、長期的な善隣友好と互恵協力関係を発展させることを堅持している。また、一貫して相互尊重、公平・正義、協力・ウィンウィンの新型国際関係の構築を目標とすることを堅持している。世界および地域の平和と発展の促進への両国の貢献は目に見えており、疑いの余地はない」と述べました。
バイデンは2021年末から「ロシアがウクライナに侵攻する証拠がある」と言い続けてきました。そして今回、確信した、と。本当でしょうか?
Source:プーチン氏、ウクライナ侵攻決めたと確信=米大統領 | ロイター
米国は過去に、トンキン湾事件、炭疽菌事件、大量破壊兵器など、誰もが知っている戦争の大義名分、つまり「戦争の口実」を捏造してきました。
一方、これだけプロパガンダを仕掛けられたロシア・プーチンが、本当にウクライナに侵攻したとしたら「やっぱり、見たことか」と全世界からロシア=悪という印象を決定づけることになります。そんな状況で、果たしてプーチンはウクライナ侵攻を開始するでしょうか?キエフに侵攻するメリットはないです。
現状、ロシアには、ドネツクに住むロシア系住民をウクライナからの攻撃から守るという大義名分があります。そのために軍を派兵したとして、ロシアは非難の対象になるでしょうか?ロシアがロシア系住民を守るために派兵するとしたら、ウクライナがNATOに加盟する前でなければなりません。そして本当に批判すべきは、ウクライナ軍によるドネツク攻撃です。実はここに、前述した通りNED(全米民主主義基金)が関わっています。
NEDによる民主化扇動、米軍による介入、メディアのプロパガンダが他国の政権転覆を担ってきたことは明らかで、ここではその歴史の一部を記載しておきます。
パナマへの侵攻
・パナマに対する謀略(1984年~)
選挙運動中、NEDの資金は、バルレッタを支援するパナマの組合に資金を提供するために、AFL-CIOの自由労働組合研究所を通じて送金された。パナマの米国大使館による開票は、アルヌルフォ・アリアスが4〜8,000票差で勝ったことを示していたにもかかわらず、開票の詐欺でバルレッタを大統領に就任させた。
1988年2月、米国フロリダ大陪審は、麻薬密売容疑により最高司令官・ノリエガを起訴した。米国政府・マスコミも一斉にノリエガ退陣・キャンペーンを行った。大規模なプロパガンダだった。それまでノリエガは、CIAから情報提供者として教育されてきてCIAに情報提供する見返りに年間20万ドルを受け取っていた。
3月、米国はノリエガの退陣とパナマの民主化を求め経済制裁等を実施し、パナマに対して圧力を加えた。ノリエガに対するクーデター未遂事件が発生するなど政情不安が続いた。デルバジェ大統領は、ノリエガ司令官の解任を決定したが、逆に大統領が国会によって解任され、マヌエル・ソリス・パルマが大統領代行大臣に就任した。
翌1989年12月20日、米国は「正当な理由作戦」(Operation Just Cause)により、米軍24,000人をパナマに侵攻。エンダラが大統領に就任した。3日間の戦闘で数百~数千人のパナマ人が死亡した。民間人も犠牲になった。
米国を信頼したノリエガは裏切られ、米軍はパナマに侵攻。米軍は殺戮のみならず、大音量のラップやヘビーメタル音楽で建物を爆破するなどの「心理戦」戦術を使用。
December 1989 Panama Invasion - Operation Just Cause - YouTube
米軍によるこの侵攻は、国連総会で国際法違反であることが判明しています。さらに、国連安全保障理事会によって提案された同様の決議は、加盟国の大多数によって支持されましたが、米国・フランス・英国は拒否。アングロサクソン同盟は自らの悪事を認めないというわけですね。
また、国際社会からの批判にも関わらず、米国はパナマ憲法に違反する「パナマ警察の再軍事化」を続けてきました。米国が言う「国際社会」がいかに都合が良い言葉か、これで分かると思います。米国は昔も今も、変わっていません。
ニカラグアへの侵攻
・ニカラグアに対する謀略(1980年代~)
米国によるニカラグアの正式な占領は1912年に開始。ニカラグアへの米国の軍事介入は、米国以外の他の国がニカラグア運河を建設するのを阻止するために計画された。
その後ニカラグアでは、NEDはCIAや他の米国の機関とともに、1990年にサンディニスタ政府を打ち負かし、反サンディニスタ連合に資金を提供するために数百万ドルを注ぎ込んだ。米国の望ましい結果を確実にするために、前もって準備が始まっていた。
NEDはニカラグア野党連合(UNO)に数百万ドルを寄付し、ニカラグア野党連合はこの連立を支持する他の多数の「民主主義構築」グループに資金を分散。他に8つの野党グループがあったが、NEDの資金はUNOにのみ提供された。野党候補のビオレタ・チャモロを支持した新聞ラ・プレンサは、無党派であるかのようにNEDの財政援助を受け、NEDは他の反サンディニスタメディアや政治グループに100万ドル以上を費やした。
NEDは、1982年にCIAのチーフだったCaseyが国家安全保障局から派遣したCIAのプロパガンダスペシャリストであるWalter Raymond Jr.によって綿密に監督されていた。米国の計画は、心理的、経済的、政治的プログラムを用いて、CIA、NED、およびAIDを通じて大規模な介入を実施することだった。この計画では、サンディニスタに反対する政党連合、労働組合連合、大衆市民組織の3つの組織を動員することが求められた。
サブグループは、若者や学生、女性、宗教団体などにフォーカス。メディアオペレーションはオペレーションの中心にした。
NEDは、その運営資金として1,250万ドル以上を提供。他のNEDの資金は、プロパガンダや訓練などのプログラムのために他のさまざまな組織に送金された。NEDの合計資金は、米国の選挙に20億ドルが外国から注入されたことに相当する。さらに、CIAは選挙に1100万ドルを費やしたと推定されている。このニカラグアで1979年から1989年の10年間、サンディニスタ革命政権の政府軍と米国が組織した反革命傭兵軍コントラが戦ったコントラ戦争により、ニカラグアで9万人が死亡した。
ニカラグアに関しては、国際司法裁判所が「米国がニカラグアに対して違法な戦争を行った」と判決を下し、170億ドルの賠償金の支払いを命じました。しかしその後、この裁定は米国によって無視されたのです。こんなことが果たして許されて良いのでしょうか。
Wikipediaのコントラ戦争のページにも記載がありますが、米国は他国で傀儡政権を樹立させて、叶わない場合には軍事介入・クーデター・内戦を引き起こすということを繰り返してきました。
アメリカ合衆国政府は20世紀の初期から冷戦時代の末期まで、第三世界の国家において、アメリカ合衆国の覇権確立や維持に都合の良い傀儡政権が(民主的政府か軍事政権かに関係なく)革命で打倒されその国の国民自身による政府が樹立された場合に、直接的な軍事介入、または当該国の対米協力者を利用してクーデター・内戦を起こさせ、国民政権を打倒し再び傀儡政権を樹立するといった、覇権主義的な介入・干渉を繰り返してきた。
この結果、ニカラグアが手に入れたのは「民主主義」だけで、治安や経済の悪化は顕在化し、犠牲だけが残ったのです。ニカラグアの国民は不幸です。
ハイチでの活動
・ハイチ(1980年~)
1980年代から1990年代初頭にかけて、NEDはハイチでも活動し、ジャン・ベルトラン・アリスティドの選挙を阻止しようとした。ハイチの新聞はNEDに批判的であり、「NEDは、その使命を「国家安全保障に関連する米国の政策と利益を支援する国際政治活動の計画、調整、実施」と見なしている」と述べた。
元カリフォルニア州知事であり1980年米国民主党大統領候補であるJerry Brownも、ハイチでのNEDによる活動を批判。約1,300万ドルが「ハイチの選挙と政治を操作することで知られる民主主義扇動」に使われた。
それにもかかわらず、アリスティドが大統領に選出された後も、米国は主にUSAIDを通じて政治活動への資金を大幅に増やした。1990年の選挙では、NEDはマール・バザンに3600万ドルに上る巨額の選挙活動費用の大半を拠出したが、当選させることは出来なかった。
ブルガリアでの活動
・ブルガリア(1990年~)
社会党が1990年の選挙で自由かつ公正に勝利し、権力を握った。その後まもなく、NEDと他の米国の外交政策構造は、ストライキと抗議行動を使用して、「混乱を生み出す」ために野党勢力への資金提供と助言を開始。最終的に大統領の辞任につながり、野党のメンバーに取って代わられた。
これ以外にもたくさんあるので、お時間がある方はこちらのサイト(英語)もご参照ください。
米国の主張のみが大きく取り上げられるのが今の日本です。でも、米国が唯一の正義なのでしょうか。ロシアの言い分にも耳を傾ける必要がありますし、その裏側に必ず米国の影が見えるのも見抜かなければなりません。米国は外国勢力が米国内でNEDのような動きをすれば必ずや排除するでしょう。米国ばかりが許される世の中では、争い事は無くなりません。
そして下記のような冷静な分析が出来る人が、日本ではもっと発信力を持つべきです。
現在のウクライナ危機で重要なことは、根本的な問題がNATOの過剰な活動によるものである一方、危機のタイミングが、純粋にロシアの目標と目的によって定められたロシアのタイムテーブルに基づいていることである。ロシアの目標はウクライナを破壊することではなく、それはいつでも達成できる。むしろ、ロシアの目標はNATOを破壊することである。
私も同感で、ロシアはこの機会に米国とEUの分断を狙っていると思います。既にアフガニスタンで大失敗したNATOの軍事的支配に加え、ウクライナを制御できないということが今回明らかになり、結果的にEUはエネルギー危機に陥る。それはけしかけた「米国のせい」ということになり、EUは米国と距離を取らざるを得ない。そんな大きな絵をプーチンは描いていると思います。
どうなるか見ていきましょう。